提言等

【政策提言】デジタル庁の設置について思うこと

【政策提言】デジタル庁の設置について思うこと

 

菅内閣の目玉政策として、来年度中にデジタル庁が設置されることが報道されています。これについて、私の思うことを記しておきたいと思います。賛同していただける方は是非、引用していただければと思います。

結論から書きますと、デジタル庁の設置には賛同なのですが、デジタル化の対象を政府や地方自治体内部のプロセスや行政サービスのみにとどめず、もっと本質的なことを議論してほしいということです。このように心配するのは、平井デジタル担当相の「コネクテッド・ワンストップ」「ワンスオンリー」などの言や、河野太郎大臣によるハンコの議論を聞くにつけ、それらはよいことなのですが、デジタル化の対象を行政内部のプロセスのデジタル化という、今までも政府CIOを置いて進めてきた対象に限定してしまうのではないか、という心配を抱くからです。

日本が成長していないこと、1人あたり国民所得が減少していることの原因を人口やその年齢構成に求めることは簡単なのですが、実はデジタル化の遅れがこれを招いているということは否定しがたいものだと思います。今回のデジタル庁設置がそれを打破するものであってほしいと思います。

デジタル化政策の対象1:産業構造転換の主導

デジタル庁設置を機に政府内部で認識、研究し、リーダーシップを発揮してほしいこととして、産業のデジタル化を挙げたいと思います。私が産業のデジタル化というのは、「2025年の崖」で語られている企業内部の情報システム更新ではなく、デジタル化による産業構造の転換と、新たな構造の中で日本が如何に世界をリードし、データを蓄積していくことができるかということです。それは、例えば、以下のようなことです。

自動車などの機器の自動運転技術の標準化や、それを支えるプラットフォーム標準化とともに、如何にすれば、そのプラットフォームにおいて日本企業がプレゼンスを示せるのか。自動車だけではなく、様々な企業と顧客をつなぐプラットフォームの出現を前提に、その競争力を如何に確保するのか。

日本全体としてイノベーションの速度を上げていくために、日本企業間における既知のデータの相互利用とそれによる果実の分配のルール、仕組みを如何に設けるのか。その仕組みを使い、どのように世界中にエコシステムを構築していくのか。

様々な種類のサプライチェーンやインフラの設備保全プロセスにおいて、日本と東南アジアやTPP諸国のデジタルインフラをどのように統一していくのか。クワッドにおいては米国主導でデジタル的一体化が進むと思いますが、産業の、特にモノ絡みの産業で如何にデジタル的な統一の主導権を握るのか。

ぜひ、このようなことの議論を1日も早く始めてほしいものだと思います。最近のデジタル化は、企業の内部プロセスのデジタル化よりも、企業間、企業と顧客間のデジタルな仕組みの創設に特色があり、Society 5.0もこのような経済主体間を結び付けるデジタル化なしには実現できません。また、個々の企業に任せていてはスピード感が出ない領域でもあります。産業秩序の再形成とデジタル化について、政府レベルでの検討を1日も早く行うべきです。

デジタル化政策の対象2:民主主義過程の研究

我が国の民主主義は代表制民主主義、つまり代議士を選出し、更にその代議士が首相を選択するという制度なのですが、これは主権者全員の意見を容易には集計、形成できないことを前提としていると思います。しかし、主権者全員がスマホとID番号を持っている世界では、この前提は成り立たないものと思います。今までよりも、正確に主権者の意思を反映する意思決定方法が可能なはずです。これを変更することは、憲法の変更にもなり、その過程に代議士が関与しますし、代表制民主主義による意思形成の歪みをむしろ利用している人たちもいるはずですので、簡単ではないと思いますが、中国が国民の統制のデジタル化を研究するのであれば、我々はむしろ民主主義の過程のデジタル化を検討するのがよいのではないでしょうか。

以上、雑感ですし、特に2番目については政権のAgentが議論すべきではないという意見もあると思いますが、デジタル庁の形が固まる前に表明しておきたいこととして、短いながら書かせていただきました。

POSTED COMMENT

  1. Torisugari より:

    デジタル経済が何を価値としてもたらすか(それをどう測定するか)が明快でないなかで、産業構造の転換を深く議論するのは、実は想像以上に困難なのではないか、と感じます。
    総論は仰る通りなのですが、各論で技術的にも社会実装的にも実効的な解を見つけることがおそらくはポイントです。その際に、どういった検討布陣で、どういった相互情報共有・議論・進捗を測っていくか、という、デジタル時代に合わせた議論・アクションのフォーメーションづくりがキモになる気がします。
    かりに総論的にどんな素晴らしい議論をしても、現場に響かないものであれば、それは空論に終わる・・・そんな感を持ちます。

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