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【ビジネスの処方箋】赤字事業の立て直し方法

【ビジネスの処方箋】赤字事業の立て直し方法

 

こんにちは。今回の記事では、赤字事業の立て直しの方法についてお話しします。経営者やその参謀の方々が、赤字事業への対処にあたってのご参考にしていただければと思います。

結論としては、赤字の立て直しにおいても問題解決の手法をきちんと踏襲するということです。

問題解決手法とは、簡単に言えば、真の問題を探り出し、問題が生じている原因を追求し、更に原因への打ち手候補を考えて選択して統合的なプログラムとし、それを実行していくというものです。ただ、問題解決手法というのは、医療で言えば患部を特定し、その病気の原因を特定し、原因を踏まえて根治のための複数の治療法を組み合わせて治療計画を策定し、実行していくべきだ、と言う極めて概括的なレベルの話で、ある意味当たり前すぎる話です。

私は、コンサルタントも医師と同様に治療法や術式を確立してこれを多くの人の間で共有し、試行錯誤によりその治療法や術式をブラッシュアップしていくべきだと思うのですが、治療法の共有は表向きにはクライアントへの守秘義務に阻まれ、それとともにコンサルティング会社の手法上の秘密として隠されているため困難です。ただ、その実は、大手ファームのコンサルタントであっても、1件1件個別に問題に対処していて、対処法の共有は行われていないか、極めて限られた範囲でしか行われていないのが実情だと思います。この記事では、赤字対処の治療法を大筋であっても記述しておくことで、経営者、その参謀、コンサルタントを含め多くの実務家の参考にしていただきたいと思っています。

 

やってはいけないこと

 

事業が赤字だからと言って、狙いを定めずにやみくもにコストダウンやそのためのレイオフなどに着手することは避けるべきです。狙いを定めないやみくもなコストダウンは事業全体を疲弊させかねない一方で、真の課題を見落とし、その改善機会を見逃して、時間を浪費します。焦る気持ちはよくわかりますが、しっかりと分析をして、その上で迅速に結論を出し、行動するようにしてください。「熱が出たから解熱剤」的な対処療法を繰り返すと、原因が取り除かれないばかりか、体力が弱り、結局は病気が悪化して体が持ちません。

 

赤字の問題の絞り込み

 

赤字事業を立てなおす上で、チェックしていただきたいことがいくつかあります。

まず、どの市場セグメント、事業セグメントで赤字が生じているのかを調査すべきです。多くの場合取引の全てが赤字になっているわけではありません。例えばJALの破綻においても全路線が赤字であったわけではなく、古くは静岡中心のスーパーマーケットのヤオハンの破綻においても全店舗が赤字であったわけではありません。路線や店舗など事業のセグメントの区分が明確な場合には、通常それらごとに管理会計が行われているので、どこが赤字になっているかは比較的明白です。路線や店舗、事業部などで区切られていない場合であっても、市場をMECEに(漏れなくダブりなく)分割して損益を観察してみると、赤字を垂れ流しているセグメントがはっきりと見えてきます。製品・市場マトリクスのような市場を顧客や製品種類、用途などで分割して観察する道具を使うのもよいでしょう。健全な商売が行われている部分に対処する必要はないので(当面は患部に集中して対処すべきなので)、マトリクスやツリーを駆使して問題のある市場セグメント、事業セグメントをシャープにえぐり出してください。例えば赤字の店舗が特定できたら、更にその店舗内の商品ごとに分解して何が問題なのかを観察するなど、できる限り患部を絞り込み、何が起こっているのかを分解的に正確に把握するように努め、健全な部分と患部とを切り分けてください。

次に行っていただきたいのは、赤字の取引について、売価と主要コストを競合とベンチマークすることです。これは、競合に関する情報を必要とするため、市場セグメントごとの収益性把握より難しいと思いますが、できる範囲でいいので行ってください。

売価の違いは、顧客やチャネルなどにインタビューすることにより比較的簡単に把握できると思います。

次にコストですが、これは競合内部の情報であるため比較が難しいと思います。自社が対抗できないような価格で競合が売り続けている場合、競合はその価格レベルで販売が可能な原価構成を持っていると考えられます。その場合、なにがそれを可能にしているのか、あるいは自社の費用構成要素の中で競合よりも高額になってしまっているものがないかどうかを、他社の製法や製造場所、原材料などから推測してみます。たとえ推測や仮説に基づくものであっても、全く何もないよりはいいと言えます。要するに、問題ない部分をどんどんスコープから外してしまい、問題を小型化し、単純化していくのです。

 

赤字原因の探索

 

収益性を市場、つまり取引の種類ごとに把握したり、費用構造の中で問題ある部分を絞りこんだら、その原因を探索していきます。

製品・市場マトリクスを見ると、赤字を生じている複数の市場セグメントの間にある傾向を見出せることがあります。傾向がみられる場合は、その傾向を生じる原因を特定するチャンスです。赤字か黒字かという二択で各セグメントを見るのではなく、製品・市場マトリクス上の収益性のグラデーションを見てみてください。グラデーションに特徴ある傾向が見られれば、そのグラデーションをもたらす原因を推測しやすくなります。よくあるものとして、例えば高性能品であるほど黒字であるが、価格の安い普及品であるほど赤字である、というような場合です。このような場合は、高性能品は自社が得意な設計能力に依存して高い価値を顧客に訴求できるが、普及品では設計能力よりも製造ノウハウの方が重要であり、そこに知見の無い自社は高コストになりがち、という仮説を立てることができます。

時系列による分析も有効で、赤字セグメントがいつから赤字になっているのかを見極めます。そこに何らかのイベントが存在すれば、それが原因に関係している可能性が高いということができます。価格が時系列的に徐々に低下し、競合がそれに追従しているのであれば、顧客は何らかの理由で原価低減に成功しているが、自社はそれに追従できていないと見るべきで、その理由を探ります。

シェアが下がったために製品単位当たりの固定費の配賦が増大し、赤字を生じていることもよくあります。シェアが低下して販売量が低下していること自体はすぐにわかることなのですが、問題はなぜシェアが低下しているのか、ということです。この原因をよく見極めないとシェアを再拡大できません。競合の製品開発投資により製品性能自体が劣っているのか、価格で負けているのか、あるいは競合がセールスエンジニアを顧客に投入していて顧客の求める製品仕様をいち早く実現してしまっているのか、これらのようなシェア低下の原因をしっかり見極めないと次の打ち手につながりません。

複雑な原因ばかりを述べましたが、製造業の場合単純に製品別原価計算ができていないとか、レンタル業の場合に稼働率や耐久性を加味したプライシングモデルが適用されていないなどの理由で、一部の製品や商品が単純にミスプライス(誤った値付け)されている可能性もあります。売上が落ちているから営業力で負けているというように単純に結論しないようにしてください。真の原因を見誤ると解決策が空振りに終わりますから、真の原因と確信できる事象を見つけるまでは解決策の立案に向かうべきではありません。

 

赤字解決策の立案

 

解決策は、短期的な施策と中長期的な施策を織り交ぜて打つのがよいと思います。

短期的には、赤字状態からの脱却のための手を速やかに打つことになります。特にキャッシュ赤字の状態にある場合は、キャッシュを浪費している根源を断つ必要があります。赤字セグメントがはっきりしている場合、その市場セグメントから一旦撤退するのも打ち手の候補となります。市場セグメントからの撤退やシェア低下による赤字の場合、通常は製造能力や輸送能力に余剰を生じ、それがコストを押し上げていますから、その余剰能力を処分する必要があります。一般に最も儲からない市場から撤退し、最もコストの高い生産設備を停止・売却することにより収益性を一気に回復することができます。多くの場合、短期的にキャッシュを消費しているのは設備ではなく従業員であり、会計的な赤字を生み出しているのは設備の減価償却費です。自社内に好業績で伸びている事業がある場合には配置換えをするなどして、一度適正な生産規模まで事業を縮退させます。JALの再生では、赤字路線からの撤退、燃費の悪い飛行機の売却し、給与水準のダウンと一部人員整理が同時に行われた結果、業績は急激に回復しています。レイオフの必要がある場合、退職金割り増しなどの資金が必要となりますが、製造業や運輸業などの設備産業の場合は設備売却によるキャッシュを離職のパッケージに充当できる場合が多いと思います。

次に、赤字を生じた根本原因の除去を行います。当然ながら赤字の原因と判断された事象により打ち手が異なります。一部セグメントで製品力が足らないのであれば、顧客に最も響く製品機能に集中的に投資してとりあえず競合と肩を並べられる製品性能水準にまで持っていくべきですし、製法や原料の競合との違いにより高コストとなっている場合は競合と同等の製法や原料の使用を検討します。技術力が足らない場合、不足する技術を自社の他事業やグループ内の他の事業会社、他社からの技術導入で補えないかを検討します。売り方の違いによりシェアを奪われている場合、競合のビジネスモデルをとりあえずは模倣して他社と伍していけるレベルにまで競争力の回復を行います。更に競合に勝つというのはその次の問題であり、とにかく競合と同一レベルまでに持っていく、つまり勝ちに行く前に負けを打ち消しに行くのです。収益力を回復できれば、投資が少しずつ可能になり、撤退してしまったセグメントへの競争力ある形での帰還も徐々に可能になってきますし、更なる関与しているセグメントでの優位性獲得のための投資も可能になってきます。

最後に重要なのは、人・組織・文化面の改革です。コスト重視で改革的な組織文化を回復しない限り、一旦手を大規模な手を打ってもまた赤字に戻ってしまいかねません。人が手術しても生活習慣を改善しなければ、また病気に陥るのと同じです。まずは赤字を招いた犯人である事業幹部の処遇を考えなおすべきで、それらの役員の能力が低い、あるいは改革的な文化を阻害しているという可能性を疑ってみるべきです。それらの役員(通常高級取り)に退場いただいたうえで、若くて闊達で改革的な人材を事業のリーダーとして登用し、改革を進めていきます。組織間の壁が厚い企業では、機能間の壁(サイロ)が情報の伝達を阻害し、機能幹部による利己的な行動を招いている可能性もありますので、次世代のリーダーとなる人材を組織横断的にチームとして組成して、一連の改革に当たらせる事例も多くみられます。

 

終わりに - 普段の対策も肝要

 

以上、赤字事業に対して打つべき手を概括的に見てきました。もちろん1件1件の事案で細部のやり方は異なりますが、流れはわかっていただけたと思います。概略のみを記述しましたが、この記事のレベルの情報でも、単純な問題解決の方法論だけよりは経営者やその参謀にとって大いに参考にしていただけると思います。赤字の対処に当たられる方、がんばってください。武勇伝を期待します。

人の病気と同様、赤字はまだ事業全体に体力がある間に対処するのが重要です。生死をさまよう状態になると輸血(借入れ)もままなりません。事業の収益性低下の兆候が見られる場合は、早期に分析して手を打ってください。全体として健康に見える場合も、市場ごとの収益性分析を行ってみると、隠れた赤字が見つかることも多くあります。体力があるうちに、ちょっとした不健康(赤字)を摘み取っていくこともまた、普段のマネジメントにおいて極めて重要なことなのです。

赤字事業が現在ある場合は迅速に、そうでない場合でも収益力の低下が見られれば、この記事の順に分析して赤字解消の計画を立案し、実行してみてください。

 

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