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中期経営計画策定の要点(1) - 成長・効率化施策の策定、投資リターンの設計

中期経営計画策定の要点(1) - 成長・効率化施策の策定、投資リターンの設計

 

コンサルティングをしていると、様々な会社の中期経営計画(中計)を拝見します。コンサルティングのテーマが何であれ、新たな企業のコンサルティングをさせていただく際には中計は必ずチェックするものの一つと言うことができるでしょう。中期経営計画策定の作り方の問題として、多く見られる残念なパターンがありますが、その中でも特に多いのが、数値計画のみが作成され、その達成方法の検討が存在しないか、不十分であるというものです。

この記事は、数値目標の持つ意味とともに、その数値目標を達成方法の計画を練ることの重要性、典型的な達成方法をお伝えするとともに、投資リターンを適切に企画することの重要性をお伝えして、読者の中計策定のヒントとしていただくことを目的としています。なお、中計については、他にも記事を書いていますので、末尾のリンクからこの記事と併せてお読みください。

 

目標数値の意味

 

中期経営計画で目標数値を設定すること自体は、もちろん必要なことです。問題はそのレベルの納得性にあり、なぜ「やらねばならぬ」のかということ、つまり目標値としてある値を提示する理由をはっきりすべきでしょう。中間管理職の方々も「上からのお達しで・・・」という説明は、だめだと思います。

通常、目標値の理由になるのは、以下のような事柄だと思います。

  • 株主を満足させられる成長
  • 競合に対抗し、十分な市場プレゼンスが確立できる売上規模
  • 社員に十分なポジションを供給できる事業規模、成長
  • 以上に到達する上でのマイルストーンの達成

これら以外にも、過去の成長トレンドや、経営者自身の思い入れなどによって数字は変わります。目標数値の見せ方、理由付けの仕方は社員をどれだけ鼓舞できるかということにもつながる、一種のアートだと思います。経営者としては、外部ステークホルダーを満足させることは当然考慮するとして、「この成長が我々にとってどういう意味を持つのか」ということに転換してスタッフに語る必要があります。

この記事では、数値自体については多く触れません。この記事で特に述べたいのは、数値の達成方法の計画についてです。

 

目標数値の達成方法の計画 - 成長は何から生まれるのか?

 

中計では多くの場合、利益や売上の成長を企画することになるのですが、それがなぜ可能なのかを中計策定の段階でよくよく考える必要があります。

というのは、この段階で目標数値のみを提示して「がんばります!」で終わらせている中計が非常に多いのです。「がんばる」ということの意味が、資源やプロセスへの何のアクションも伴わず、今の組織の構成員の行動量を増やすという意味だとすると、追加的な数値目標の達成は難しいと考えざるを得ません。なぜなら今までだって頑張ってきたはずであり、そうじゃなければ今まで何をしていたのかということになるからです。むしろ、時短の要求により、行動量は減少することを前提にすべきですらあります。

成長は、通常、次のようなものから生み出されます。現在関与している市場自体が成長する場合を除いて、何らかの施策、多くの場合投資を伴った施策を打たなければ、成長は達成できません。

  • 【市場の成長】 現在自社が関与している市場の成長が予想されれば、その市場の成長に乗って自社の売上の増加も期待できます。この場合は、今のままのオペレーションを継続すれば成長を達成できます。但し、市場が成長しても、クロージングのための営業マンや生産能力を増やさなければ数字は停滞するので、相応のキャパシティ増加は必要です。市場成長が前提となる場合は、売上の伸びを前提としてよいのですが、経営者として市場と同じ速度の成長で満足してよいのかという問題はあります。
    反対に自社が関与している市場が停滞したり、あるいは衰退することが予想されるのであれば、相応に売上が落ちると考えた方がいいでしょう。中計をレビューする立場にある方は、右肩上がりの計画を見せられたら、「市場はどう予測しているの?」と聞いてみてください。計画者が中計の前提として市場の伸びをどのように織り込んでいるのかを知ることができます。既存市場が停滞ないし衰退する場合は、他の手を打たなければならないことになりますので、その計画を促す意味でもその将来の現在関与する市場の推移は厳しめに予想する(停滞ないし衰退方向で予測する)ことをお勧めします。
  • 【既存市場でのシェア増加】 何らかの施策を打つことにより、既に関与している市場内部でのシェアが増加すれば、市場の伸びが停滞していても自社の売上や利益を伸ばすことができます。反対に言うと、何の手も打たないのに、ただ今までのやり方で頑張っただけではシェアは伸びません。シェアを伸ばす施策として以下のような施策を考えてみてください。
    • 【投入資源量の増加】 営業マンを増やす、自動販売機を増設する、ポテンシャルな売上に対して生産能力の制約がある場合は生産能力を増強するなど、投入資源量を増やせば、売上や利益を増加させられる可能性があります。但し、売れる見込みのない生産能力の増強では事業は拡大しないので注意してください。また、通常、追加的な営業マンの投入は、効率の悪い顧客、能力の低い営業マンの投入を招き、営業効率を落とすことになりかねないことにも注意してください。競合の反撃も考慮してください。
    • 【製品・サービスの改良】 製品・サービスの開発投資を行い、製品・サービスの競争力を改善することが考えられます。コモディティの場合、付帯サービスや出荷地点数を増やして顧客利便性を上げるというのも、製品そのものの改良ではないですがこれに匹敵するものでしょう。但し、競合は反撃することを前提としてください。
    • 【顧客関連アクション】 競合との共納になっている顧客に、自社の価格を下げる代わりに専納としてもらう約束を取り付けるなどのアクションです。これも、通常は競合の反撃にあうため、自社の思い通りにはなりませんので、そのことを前提としてください。
    • 【新たなビジネスモデルの追加的採用】 現在卸を通じて販売しているがECを行うとか、生保レディを通じて保険を販売している会社が銀行の窓販チャネルを追加するとか、販売のみを行っている会社がレンタルも行うなどの新たなビジネスモデルにより売上を増加させる可能性があります。但し、同じ市場に対して新たなビジネスモデルを従来のビジネスモデルと重複して投入すると、異なったビジネスモデルの間で共食い(カニバリゼーション)が起こる可能性があることに注意してください。最も望ましいのは、いままで進出していない市場や市場セグメントを新しいビジネスモデルで攻めることです。未開拓の海外市場をECで攻略するとか、家庭内消費市場を宅配で攻略するというようなものです。
  • 【新たな市場への進出】
    • 地理的拡大】 今まで進出していなかった地域(国内、国外を含めて)に進出するのは、最も簡単な売上増加策です。この場合、新たな地域に向けた製品の改良が必要なことが多いですし、総代理店を起用してその地域の商売を全て任せるのではない限り拠点の設定などの投資が必要になります。ちなみに、代理店の起用は、新たな地域に容易に進出できますが、後に自ら販売網を構築したくても代理店の利益を侵すためできなくなってしまう可能性があることに留意してください。代理店は独立の商人ですから、代理店内部の事業ポートフォリオを持ち、産業バリューチェーン全体の効率化よりも自社だけの資本効率最大化を目指して行動するため、次第に自社の思い通りにならないことにいら立つことになります。
    • 【新たな顧客セグメントのターゲティング】 いままで関与していなかった市場、ないし市場セグメントに参入するというのも、典型的な売上増加策です。新しい市場や市場セグメントに参入する場合、多くの場合その市場のために製品を開発ないし変更する必要がありますし、営業マンも追加的に雇うなどの投資を行う必要があります。
    • 【新製品・サービスの投入】 新たな製品ラインの投入、従来とことなったサービスの追加は、追加的な売上をもたらす可能性があります。この場合、当然ながら製品開発や製造工程、サービス要員の増加に対して、追加的な投資が必要です。
  • 【他社の買収】 他社を買収すると、その分売上と利益が増加します。多くの場合、買収時に顧客の離脱を生じることが多いということと、同業を買収した場合には通常資源効率が上昇するので、資本効率の悪い資源から一部廃棄ないし売却できることが多いことに留意してください。

 

売上以外の各機能の業績向上策の計画

 

売上の増加とそれによる利益の増加だけではなく、オペレーション改善による事業の収益性の改善もまた、中計の内容となります。中計では、オペレーション効率化のためにどのような施策を打っていくのかを計画すべきで、ここでも何らかの投資を伴うことが多いということができます。生産設備やITなどの導入や改良など、ツールへの投資が行われるのが普通だと思いますが、プロセス改善プロジェクトを行い何のツールも使わない場合であっても、プロジェクトの時間自体が投資と言えるでしょう。ここでも、必ずどのような施策を打つかを中計で明らかにし、ここでも、「がんばります!」で済まさないことが肝要です。

施策は、必ず資源、プロセス、顧客のどれか、または複数にインパクトを与え、それが財務的な結果をもたらします。中計では、この因果関係を明らかにし、財務的な結果の前提となる中間的な非財務指標についても計画するとよいと考えます。これは、スコアカードで言うところの「戦略マップ」というものです(キャプランらの戦略マップでは資源がいささか曖昧になっていて、プロセスと一体となっているきらいがあります)。

効率化施策の内容は多岐にわたるので、機会があれば別途まとめたいと思います。

 

投資リターンの計画、そのポートフォリオとしての中計

 

今まで述べてきた成長や効率化のための様々な施策について、ほぼすべての場合に投資を伴っていることに注意していただきたいと思います。中期経営計画としてP/Lだけを策定している企業が多いと観察しますし、事業計画と投資予算とは別々に立案している企業も多いのですが、投資がなければ利益や売上の伸び、オペレーション効率化も通常はありませんので、投資とリターンは本来一体として検討すべきものです。投資を行うことによってリターンを得るという発想は、資本主義の基本中の基本です。

中計は、3年から5年という期間を持ちますから、リターンがその後続くことによる投資ケースのライフの全体像を評価することはできません。しかし、初期投資の規模、それに対するリターンの規模、リターンがピークに上昇する速度、維持投資の規模などの概要とともに、事業の最も脆弱な期間である立上げ時の施策について計画をすることができ、これこそが中計で検討すべき内容の重要な部分を占めています。

更に、中計は、投資とリターンについて企業や事業全体を俯瞰的に計画できる機会です。企業や事業としての投資リターンの全体像を把握しておくことは会社全体、事業全体をバランスよく経営を行っていく上で大きな意味があるのです。多くの企業や事業にとって、余剰資金や借り入れ、人の場合には雇い入れられる人材規模や異動によって確保できる人の数には限りがあります。その限りある資源をどこから引き揚げ、どこに投資していくか(賭け事のように張っていくか)を考えることが中計を立案することの重要な内容となっていることを忘れないでください。

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