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中期経営計画策定の要点(2) - 事業構築の過程の設計

中期経営計画策定の要点(2) - 事業構築の過程の設計

 

以前の記事では、目標数値と現状のまま推移した場合予想される数値とのギャップを何で埋めるのかについて述べました。そこには通常投資が必要であり、中期経営計画は投資リターンの設計としての意味を持っていることを述べました。

今回の記事は、中期経営計画を策定される方々を対象として、中期経営計画が事業構築の過程の設計としても重要な意味を持っていることを述べ、参考にしていただくことを目的としています。

 

事業の構築過程の設計

 

中期経営計画(中計)は、その対象期間として3年ないし5年という期間を持っています。将来の業績ギャップを予測し、そのギャップをどのように埋めるかについて計画をしたら、ギャップを埋めるための新規事業の構築や新市場への進出をどのように進めるかについて計画しなければなりません。

実は、この点について、実に残念な中計が多いのです。事業部の戦略として、新規事業の立上げや新市場への進出について計画していても、最終年度にあるべき姿を描くだけで、中間の年度についてほとんど見るべき計画がなく、数値についても中間年度については最終年度のあるべき数値と現状とのギャップを等間隔に置いただけという計画すら多く存在します。

中計は、未来の事業の設計図であるとともに、その設計図どおりの事業とするためにどのようにそれを構築していくかというプロジェクト計画でもあるべきで、このことこそ、中計が一定の期間を持っていることの意味なのです。多年度にわたる事業構築のためのプロジェクト計画は、そのために特別な計画を行うのでない限り、計画する場面がありません。その一方で、事業は将来の絵姿を描き、「これを目指してみんなでがんばろう」と士気鼓舞するのみで実現するような甘いものではありません。多くのプロジェクトがそうであるように、綿密に構築過程を計画して初めて構築を確実にできるものなのです。

これは、筋の戦略とも呼べるものなのですが、過程の優劣によって実現される現実は大きく異なります。将棋は筋で戦っていくゲームなのですが、将棋に長けた人は飛車や角を欠いた状態からでも初心者に余勝つことができますし、その勝敗は本人にとっては再現可能なものです。このことは、筋の優劣は、資源の優劣をも覆すことができる威力を持っていることがわかりますし、筋による勝敗は(天賦の才があることは認めつつも)学習可能であることを示しています。

 

プロジェクトとしての中計の中身

 

事業を構築する上で、考慮すべきことは、以下のような項目です。

  • 先ずは、市場をどう拡大していくかということです。グループ会社や関係性の深い会社など、実績がなくても買ってくれそうな顧客から始めて、その後どのように顧客を拡大していくのかを考えます。価格さえ下げれば売れるセグメントと、価格よりも実績を評価するセグメントがあれば、まずは価格勝負のセグメントに関与し、その後その実績をもって実績を評価するセグメントに挑む、というようなストーリーを考えていきます。
  • 次に、事業に必要な組織能力をどのように拡充していくかということです。まずは、他社のアンダーで仕事をこなし指導を受けながら組織能力を蓄えて独り立ちできるようにしていくとか、当初は外注を使うが、次第に内製化していくなどの方法が考えられます。獲得する能力の種類の間の優先順位も考えるべきで、重要なものに集中してまずはその能力を獲得し、次第に事業全体を自社で運営できるようにしていく、というようなことが考えられます。また、デリバリー能力の拡充にあたり、当初は資金を節約するために生産を委託したり生産設備をリースしたりすることになりますが、事業が拡大して内部留保が拡大してくると固定資産投資を行うようになるというようなストーリーも考えられます。
  • 顧客の拡大と組織のデリバリー能力の拡大は事業構築の構築対象の2大要素と言えますが、できれば、集客と組織能力との間に好循環を成立させることが望ましいと言えます。つまり、デリバリー実績が積み上がり、製品やサービスとして成熟してくると、その評判が集客に結び付くというような形です。このような好循環は、それを狙って構築できるものではないため、それを計画値に含めることは危険ですが、好循環が生じるように仕向けることは必要だと思います。
  • 事業を構築していく上で、外部イベントをどのように活用していくかを考えるべきです。例えば、期限付きの奨励金や事業優遇策をどのように活用しその後の優遇策廃止に備えていくか、であるとか、オリンピックや万博などの開催を活用して集客した上で初期投資をできるだけ回収してしまい、その後の稼働率低下や単価下落に備えるだとか、初期的には地場で販売し計画されている道路開通後に商圏を広げていく、というようなものです。
  • 事業は、立上げ直後が最も脆弱であるということができます。立上げ当初は足元の売上を作り事業として廻していくことがやっとなので、確実に立ち上げることができる市場やデリバリー方法を考えることが先決ですが、事業が成長していくに従って次第に比較的大きなリスクも取れるようになってきます。いくら利益率が高くても、リスクを伴う市場には立上げ当初はいけませんが、反対にある程度企業体力がつけば、そのような高収益市場に関与しないことこそが機会ロスとなります。ここでも適切なステップ論としての筋書きが重要となります。
  • 対象市場や戦略を明確に変更するステージや、ステージ間の区切りとなるようなマイルストーンを考えてみるとよいでしょう。例えば、コンビニATMを展開するイーネットは、当初都銀をターゲット顧客としていましたが、その後第一地銀を顧客として地方に展開し、その後にその他の金融機関へと広げていくというステップを踏んで拡大してきています。

事業を構築していく筋書きは、経営学で言う戦略論の対象とされていません。しかし、現実にはこの筋書きを議論して実行していくことほど楽しいものはありません。

 

財務計画への落とし込み

 

初期的には各年度の目標数値が上位の組織から振られると思いますが、その数値は事業立上げのためのプロジェクトを反映したものではありません。理想的には、これを各年度における市場開拓やデリバリーの仕組み構築の投影としての積み上げの数値に転換して各年度の財務諸表を構築するのが望ましいと言えます。その結果として中間年度の数値が目標数値と外れてしまうことも起こりうると考えますが、ここでは中間年度の目標を厳格に守ることよりも事業立上げの蓋然性を上げることの方を優先すべきでしょう。

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