ビジネスのヒント

誰も書かなかった合同会社の実質的デメリット

誰も書かなかった合同会社の実質的デメリット

いままで個人事業主だった方で、法人化を意図して法人の種類について株式会社か合同会社かについて迷われている方も多いと思います。合同会社では上場できませんので、上場を目指す場合は別として、実質的に見た場合両社はそれほど変わらないと説明されていることが多いのではないでしょうか。

今回は、これから法人の設立を考えておられる方を対象として、長年合同会社を経営してみて実質的に不便であったことで、ネットで検索しても誰も言及していないが私としては結構重大な合同会社のデメリットだと考えていることをお伝えしたいと思います。

 

一般的な説明:「株式会社と合同会社の違いはほとんどない」

 

株式会社と合同会社という商号の違いや代表者の役職の呼称の違い(株式会社では代表取締役、合同会社では代表社員)、設立費用の違い(株式会社では公証役場での定款認証手数料がかかり、登録免許税が比較的高額)、意思決定方法の違いなどの他に、株式会社では決算公告義務があること、合同会社では利益の分配が持分(株式)の比率によらなくてもよいことなどが実質的な違いであり、ほぼ実質的に違いはなく、設立・運用コストが低いことや、利益分配の柔軟性などを考えると、合同会社の方が柔軟に運用できる点で優れているようにも思いますし、そのように述べている解説も多いと思います。

これらの解説は、その述べている範囲では正しいのですが、私としては実際に合同会社を運用してみて、誰も解説していない、株式会社と比較して結構大きな実質的なデメリットだと思うことが存在しました。

 

実質的な合同会社のデメリット - 剰余金の資本組入れによる増資ができない

 

結論として、私の考える合同会社の実質的なデメリットは、剰余金の資本組入れによる増資ができないことです。株式会社がこれを行うことが可能であることは、会社法第450条が「株式会社は、剰余金の額を減少して、資本金の額を増加することができる。」と定めていることからも明らかであり、実際行うことに何の問題もないのですが、私はこれは当然合同会社でもできるものだと思い込んでいました。なぜそう思っていたかというと、有限会社(新会社法のもとでは特例有限会社)ではこれができるのです。合同会社は有限会社の後継の会社形態のような面があるので、当然のように株式会社に関する規定がガバーッと合同会社に準用されているんだろうなと勝手に思っていました。

しかし、実際に法務局で確認すると、できないと言われてしまったのです。「その他利益剰余金の資本組入れによる増資」を社員総会で決議して決議後ただちに登記しようと思ったのですが、登記申請書の例を探しても合同会社の例が見つからないので、法務局に予約をとって相談に行って初めて発覚したのでした。「なんでですか?」と質問しても「法文にないから」というのが答えでした。法務局というのは、法を確実に執行するのが役割なので、法務局を責めても仕方ありません。ではなぜ合同会社ではできないのか、という法の違いの趣旨を考えてみても思い当たるものはなく、おそらくこれは制度の作りこみにおける見落としなのではないかと私は思っています。是非、将来の会社法改正で合同会社も資本組入れによる増資を認めてもらいたいものだと思います。

 

資本組入れによる増資ができないと何が問題なのか?

 

資本組入れによる増資ができないと何が不便なのかというと、合同会社が成長しても自ら稼いだ利益によって資本金を増加できず、その結果取引先などへ伝える資本金の額が会社の規模に比べて極端に少ないことになりかねない、ということです。

会社与信上の安全性に関係しているのは、資本金の額ではなく、貸借対照表上の資本の部全体の額であり、またそれを使った自己資本比率などの指標であるはずなのに、日本の商慣習上、取引を始める際に資本の部の金額ではなく資本金を明示させられることが多いのが実情です。納入業者としてはそれに従わざるを得ない面があり、そのため取引その他の外部への体裁上、会社の規模に応じて増資したいと考えるわけです。ただ資本金を明示させるのは全くの不合理なのかというとそうでもなく、準備金よりも資本金の方が厳重に守られており、しかも株式会社の場合自由に剰余金から資本金を増加できるので、資本に組み入れている=それを債権者のために守る意思がある、という意味では合理的ではあります。しかし、合同会社では、そこに不自由があるのです。

 

合同会社の増資方法と問題点

 

もちろん、合同会社であっても払込による増資は可能です。であれば、社員への利益分配を行った後に増資すればよく、実質的に問題ないと考えがちですが、税金を考えるとこれは剰余金の資本金組入れによる増資と同等ではありません。一度利益分配を行ってしまうとそこに所得税あるいは法人税として課税されてしまい、課税後に払い込む分配金由来の額はその分少なくなってしまうからです。私は、合同会社においても剰余金の資本組入れができると誤解していましたので、原始的な資本金は少なくし、会社の利益から資本金を積み増すことによって、課税後の手持ち資金の使用を節約しながら大きな資本金を払込んだのと同等の効果(取引先に大きな資本金を見せられる効果)を利益剰余金からの増資によって得ようと考えていましたが、結局できませんでした。

剰余金の資本組入れは、合同会社を株式会社に改組することによっても可能になります。しかし、私の場合、増資の動機が「体裁」という実質的にあまり意味があるものではないので、二の足を踏んでいるというのが実情です。その結果、私の所有するエミネンス合同会社は、ぶ厚い資本の部を持つに至っても資本金は100万円のままになっていて、新たな取引先と取引を始める際に記入する取引先シートを書くたびにちょっぴり恥ずかしい思いをしています。私が考えすぎなのかもしれませんが。なお、合同会社を株式会社に変更することは債権者の異議がなければ可能であるばかりではなく、実は直接株式会社を設立するよりも費用的には安くできます。変更後は正真正銘の株式会社ですので、最初から株式会社であった会社と全く同じことができますが、唯一法人番号だけは3で始まる合同会社時代のものがそのまま使われます(実質的な違いは何もありません)。

合同会社を選択する場合は、将来の成長を考えたときの増資の不自由さを考慮に入れた上で選択してください。

コンサルティングについて問い合わせる:(顧問型)(課題解決型

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA